述井庸治に

『思い出話』

 私と重盛が、赤坂の駅の近くをいつものように自分たちの部下(営業課員)2人を連れ歩いていた。すると、私の横を歩く重盛が突然、左ひじで私の右腕をつついてきた。私が重盛の顔を見ると、重盛の顔が駅ビルの方向を見て私にその方向を見ろと合図している。


 私がその方向を見ると、長いブロンドの髪を持つ若い女性。明らかに日本人ではない。肩から大きなバッグを下げ、ファッションマガジンを読みながら耳にはヘッドホン、たぶんヘッドホンから流れるミュージックに合わせ体でリズムをとり、ビルの大きな柱に寄りかかっている。
 ファッション誌から現れたような女性。
 私が重盛の顔を見ると
「綺麗でしょう。述井さん、チョットここで待ってて」
 と言い残し、重盛はその女性のところへ歩いて行った。そして声をかけた。
「Why don't you join us?」(一緒に飲みに行こうよ)
 それほど背の高くない小柄な重盛が、背の高い金髪の女性に声をかけている。なんとなく滑稽な風景だった。
 ヘッドホンをとり、重盛の流暢な英語を聞く女性。両手を前に出し、困ったように笑いながら首を横に振り何か言っている。
 そして重盛は、私のところに戻って来た。
「述井さん、ダメだってさ。なんか待ち合わせしてるんだって」
「待ち合わせてるんじゃ、しょうがないよね」
 と、私は答えた。

 また、あるホステス・クラブを紹介された私達、そのクラブへ行ってみようということになり、いつものように、私、重盛、そして2人の部下を連れそのクラブへ向かった。
 クラブに行く途中、重盛が言ってきた。
「述井さん、少し遊ばない?」
「いいよ。どうするの?」
「我々、芸能プロダクションということにしよう。名前は『述プロダクション』述井さんは社長ね。俺はコーディネーター、そして、君はプランナー、そして君はマスコミ担当」
 全員の役割を決め私達はそのクラブのドアを開けた。お店にはホステスがいっぱいおり、中央のテーブルに案内された。若いホステスが1人つき水割りを作り始める。彼女がが私達4人に水割りを配り終えた時、重盛がおもむろに私に声をかけた。
「社長、この娘(こ)いいんじゃないですか?」
「うん、そうだね」
 と、私が答える。
「えっ、なに、何なの?」
 若いホステスは怪訝(けげん)そうな顔で尋ねる。
 すると重盛、私の方を指しながら答える。
「この方知らないの?」
「えっ、どなたなの?」
「述プロダクションって知ってる? あの芸能プロダクションの」
 彼女が考えていると、重盛は二人の部下に話を回す。
「ねぇ、君たち、どう思う?」
 すると部下の1人が答える。
「いいですね。いちど事務所に来ていただきましょうよ」
 そこから、私達の彼女をどう売り出すかという話が始まった。彼女のキャラをどうするか、売り出すためのキャンペーン計画、また、いくつかの人気テレビ番組への出演などの話でテーブルが盛り上がる。
 すると面白いのは、他のホステス達が私達の話に聞き耳を立てている。彼女達はしばしば私達のテーブルに来て、私達についた若いホステスに尋ねる。
「この方々、どういう人達?」
「述プロダクションって知ってる?」
 と私たちについたホステスは答えている。
 そしてあっという間に約2時間の時が流れ、帰る前に私たちは彼女に伝えた。
「楽しかったね。ところでレゴブロックって知ってる? 私達、実はレゴブロックから来たんだ。ゴメン、怒った?」
 若いホステスは最初驚いた顔をしていたが、笑いながら首を横に振った。
「ううん、楽しかった」
「私達も楽しかった。ありがとう」
 と、お礼を言い私達はその店を後にした。

 重盛と共に過ごしたのはたった2年、しかし彼とのエピソードはまだまだ沢山ある。私たちはライバルだった。けれどもエピソードの一つ一つがライバルというよりは何十年も共に過ごしてきた親友のような気がする。

 こうして、重盛の話をしていると、お酒の酔いも手伝ってか、今重盛と飲んでいるような錯覚に陥る。そして重盛の息子の顔を見ると、彼はとても懐かしそうな顔をして私の話を聞いている。太い眉毛の下の目を何か眩しそうに細めながら何処か遠くを見ている。それは、重盛が私と飲みに行った時によくみせた表情だった。
「述井さんありがとう。オレはいつも述井さんのそばにいるよ」
 そんな重盛の言葉が聞こえてきた。