述井庸治に

『突然の電話・甥との出会い』

 それから22年の時が流れ、私は4年前に還暦を迎えた。時は残酷いや優しいのかもしれない。いつしか重盛は私の記憶の底深くに沈んでしまった。


 私がいつものように教室にいると、教室の電話が鳴った。
私が電話にでると、女性の声がした。
「ホームページをみてお電話しました。実は私の夫が仕事で海外に行くことが多くなりましたが、夫は英語が上手く使えません。それで英会話学校を探しています。いちどお伺いして詳しい説明を聞きたいのですが?」  
「分かりました。それでは、いつがよろしいですか?」
「夫は土・日が休みなので、今度の土曜日はいかがでしょうか?」
「分かりました。それでは1時30分ということでいかがですか?」
「結構です。その時間にお伺いします。よろしくお願い致します」
「分かりました。ところでお名前は?」
「重盛と申します」
「重盛さんですね。それでは土曜日、1時30分にお待ちしています」
と電話を切る。「重盛」という名前を聞いた時、私の記憶の底に沈んでいた「重盛」が浮かび上がってきたのだ。

《甥との出会い》
 そして彼女の夫、重盛君が私のスクールにやって来た。
私は「実践英語」について説明し、昔、レゴ社の国際会議で自分の英語が使えなかった話をすると、彼の顔が驚きの表情に変わった。そして急(せ)き込むように私に言った。
「先生、私の伯父もレゴで働いていました」
「えっ!」
驚く私を見て、彼は話を続けた。
「私の大好きな伯父でした。伯父からプレゼントにレゴブロックをもらった時、伯父は昔レゴで働いていたと言っていました」
 電話で「重盛」という名を聞いて、私は重盛のことを思い出した。しかし、まさかその重盛の甥だとは!
「重盛、これはいったいどういうことだ。私に何をしろというのだ?」

そして彼は私のスクールに通い始めた。上達は速く3カ月もすると英語で十分コミュニケーション出来るようになった。
半年過ぎた時、彼は私に言ってきた。
「先生、まだ十分ではありませんが何とか仕事で英語を使えるようになりました。ありがとうございました」
私は彼に言った。
「今、君は世界という舞台に立つ事が出来る。これからはそこで君が何をするかだ。日本人としての誇りを持ち活躍してもらいたい」
これは、私がいつも私のスクールを卒業する生徒たちにいう言葉である。
すると、彼が言った。
「本当にありがとうございました。先生、実は私の従兄が先生のところで英会話を学びたいというのですが、教えていただけますか?」
重盛の息子が私の処に来るという。私にはそうなるような予感がしていた。